「好きですっ私とお付き合いしてください!」
可愛らしく頬を染め、少し潤んだ瞳で見上げる少女を前にした
少し癖のある濃い茶色の髪をした男はみどり色の目をゆっくりと細めて笑った。
「ごめんなー、俺はロヴィのもんやから」
そう笑ってあっさりバッサリ少女の振るとそのままくるりと踵を返し、
校舎の影に隠れていた俺を見つけ『ロヴィーノ!』とまるで犬がご主人様を見つけたかの如く
尻尾を振らんばかりのいい笑顔で走り寄ってきた。
そのままがばりと抱きつこうとする駄犬に鞄を投げつけた。
納得いかない。
何故だ。
何故こんな駄犬が俺よりモテる。
「ごめんな、待たせてもうて。帰ろか?」
俺が投げた鞄をそれが当然のように自分の鞄と一緒に持ち、
にこにこと笑うアントーニョに眉を寄せながら頷いた。
いつものように並んで歩きながら俺は納得いかないと不満を口にした。
「何でテメーばっか女の子にモテるんだよ!俺の方がイケメンなのにっ!」
「あはは、せやなぁ、ロヴィかっちょえぇもんなー」
言いながら大きな手で頭を撫でられ、それを思い切り振り払った。
「お前に言われると腹立つからやめろちくしょーが!」
小さい頃はそんなに背丈も変わらなくて、俺の後をついて回る
幼馴染は悔しいことに今や俺よりも背が高く、ガタイもいい。
顔はそこそこでも愛嬌のある優しい男は男女共に人気がある(…らしい)
しかし、アントーニョは誰から告白されようとも断り続けている。
自分はロヴィーノのものだから、と。
言っておくが別に俺とアントーニョは付き合ってはいない。
そもそも男同士である。あり得ない。
しかしながらアントーニョはそう言って断るものだから
周囲には“そう”認識されてしまっている。
いくら俺が声を大にして否定しようとも何故か誰も信じてくれないのだ。
俺にとってアントーニョはただの幼馴染…いや、ただの犬だ。
めちゃくちゃ世話焼きで俺の我儘を聞き入れる忠実な僕。
そう言ってやればアントーニョも笑顔でそうだと肯定した。
だから、『ロヴィーノのもの』というのはそういう意味であって
色気のあるものではないのだ。
そうでなければ冗談じゃない。
苛立ちを含ませて隣の男を睨みつける。
それに気付いた男は笑みを深くした。
「妬いた?」
「何でだよ」
「んんー、残念」
何が残念だ。
時々アントーニョはわけの分からないことを言う。
「んなことより、靴紐解けた!結べこのやろー」
立ち止まってずいと足を前に出す。
アントーニョは心得たとばかりに笑うと俺の身体をひょいと軽々抱き上げ
校門へと続く道の脇にある花壇にロヴィーノを座らせると足元に跪いた。
何故かは分からないが嬉しそうに丁寧に解けた靴紐を結び直すと、
上目遣いでこちらを見上げた。
そして、ふとみどりの瞳はこの上なく幸せそうに目を細めて笑った。
どきりと心臓が跳ねたのを誤魔化すように視線を逸らした。
(何だ、今の)
動揺してしまう自分がわからない。
そんな俺をどう思ったのかアントーニョはするりと俺の脹脛をズボン越しに撫でた。
「んっ…何すんだっ」
べしっと頭を叩くと、あたたと言いながらアントーニョは立ち上がった。
「はい、結べたでー?」
「ふん」
手を差し出したアントーニョに大人しくそれを握り立ち上がった。
「やっぱ、駄犬だ」
それ以上には絶対にならないし、なってもらっては困る。
(ん…?困る?)
何で困るんだ。自分にツッコミを入れながら校門を出た。
そんなロヴィーノの隣を歩く男が駄犬ではなく狂犬に変貌するのはまだ少し先の話。
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下克上っていいよね!!←
女王に振り回される可哀想な下僕…かと思いきや
実は囲われてるのは女王の方だったりして。
他が付け入る隙間がないよう常にべったりで
自分がいなければ何も出来ないくらい駄目な子に仕立て上げ
逃げることも出来ないくらいぐずぐずに甘やかして
頃合を見計らって美味しくいただいちゃう。
そんな下克上な西ロマ美味しい。