これで何事もなければ、1冊は新刊出ます。
「恋になるまで、」(A5/20P)伊ロマです。
伊ロマというか、伊→ロマ…?
終始イタちゃん視点でイタちゃんが頑張る話です。
続きにサンプルを少し。
ぴくしぶにも後日上げます。
今から二冊目頑張ってみます。
1冊目は真面目に書いたので今度はもう少し砕けた感じで(笑)
久しぶりの休暇に、友人である日本の家を訪ねて数日間滞在したのち、再び自国に戻ってきた。
空港からタクシーで自宅付近まで送ってもらうともう辺りは真っ暗で、
付近の家々には明かりが灯り、時々料理の匂いが鼻を擽り、空腹を思い出して早く家に帰ろうと足を速めた。
その時の俺は、きっと帰ったら『遅い!』と文句たらたらに兄が出迎えてくれるだろうと、そう思っていた。
自分と同じく久しぶりの休暇を貰った兄は自分よりも早く馴染みの国であるスペインへと
そそくさと出かけて行ったのだ。休暇でなくとも常にあの国(というかスペイン兄ちゃんの家)に入り浸っているというのに…と、苦笑してしまう。
兄、ロマーノはスペインが好きだ。ずっと昔、支配されていた時から兄はスペインに恋をしていた。
それは別に本人に確かめたわけではないけれど、大体見ていれば分かる。
それくらい、兄の瞳はずっとスペインを見ていたし、素直じゃない兄にしてみれば、十分態度にも出ていた。
しかし、そんな兄の想いに気付いているのかいないのか、のらりくらりと兄の小さなサインを躱し続ける
スペインに対しては若干苛立ちが募るものの、教える気は毛頭ないし、お膳立てしてやる気もない。
そもそもスペインが兄をそういう意味で好きかどうかなんてどうでもいい。
ただ、兄を傷つけるようなことがあれば、こちらも容赦はしないけれど…―――。
兄はスペインを想って何度涙を零しただろう。
それを思うと自分の胸も痛み、小さく息を吐いた。
(…もういろいろと限界なんだよね)
俺の好きな人は幸せそうにはとてもみえない。
好きな人が零す涙もう見たくないんだ。
そう、俺の好きな人は俺の兄ちゃん。
大事な家族であり、格好いい自慢の兄ちゃんだ。
「…ヴェ?」
自宅が漸く見えてきたところで、首を傾げた。家の電気がついてない。
…ということは、まだ兄は帰ってきていないのだろう。
スペインに滞在するのが長引くことなんてよくあることだ。
仕方ない、今日は一人で夕食を食べよう。あ、でも冷蔵庫に何もないかもしれない。
パスタにオリーブオイル、にんにくと唐辛子さえあればペペロンチーノくらいは出来るだろうか。
あぁ、一人きりの食事はつまらないなぁ。ほんの少し残念に思いながら、玄関の鍵を開けて中に入った。
パチンと玄関の電気をつけると、廊下に無造作に兄の鞄が置かれていて驚いた。
まさか家にいるとは思わなかった。てっきりまだスペインから帰っていないのだとばかり思っていたのに。
自分の旅行鞄をリビングに置き、辺りを見回すが、兄の姿はない。
もしかして自室でシエスタをして、深く眠り込んでいるのかもしれない。
それなら、起こして一緒にご飯を食べよう。
きっと起きたら起きたで『腹が減った、メシ!』とうるさく言うに違いない。
想像してふと笑みを浮かべ、二階にある兄の部屋を数回ノックしてみる。
「にいちゃーん!ただいま~!俺帰ってきたよー!」
そう声をかけるも返ってくる言葉はなく、しかしもぞりと何かが動く気配はするので
居るにはいるのだろう。
一応先程ノックはした、『入るな』とも言われていないから、ヴェネチアーノは迷うことなくドアを開いて部屋に踏み込んだ。
「兄ちゃん、――――――」
電気もつけていない真っ暗な部屋の中で、盛り上がった布団の塊からぴょこんと覗くくるんが見えた。
そこから漏れる押し殺した泣き声に、眉間を寄せた。
ひくひくと微かに漏れ聞こえるそれに胸が痛み、俺はそっとその傍に近づき、ゆっくりとその塊を撫でた。
「兄ちゃん、どうしたの?」
出来るだけ優しく声をかけるが、放っておけとばかりにその塊が逃げる。
構って欲しくないのかもしれないが、こんなふうに悲痛に泣く兄を放っておけるわけもない。
――――――こういう時こそ、兄を一人にしてはいけないのだ。
再度手を伸ばして、勢い良く布団を捲り上げた。
「っ!?」
「ヴェー、兄ちゃんただいま~」
泣き腫らした兄を抱きしめると、激しく抵抗されたのだけど、俺も負けじと抱きしめる力を強くした。
やがて抵抗するのをやめた兄の赤くなった頬にまた涙が伝い、ぽたりぽたりと俺の服に染みを作っていった。
その背を優しく撫でながら、兄の泣き声に共鳴するように瞳に涙が滲んで、二人で泣きながら
そのまま疲れて眠ってしまったのだった。
*
翌日、目を覚ましたヴェネチアーノは兄を起こさないようにそっとベッドを抜け出して
軽く身支度を整えると冷蔵庫の中身を確認するが、二人とも家を空けていたせいで碌なものがない。
まずは買い物だな、と近くの市場に繰り出し、いろいろな食材を買って戻ってくると
エプロンをつけ、腕捲りをして気合を入れると朝食を作り始めた。
ロマーノはまだ起きてこない。
昨日たくさん泣いたせいで疲れているのかもしれない。
(スペイン兄ちゃんと何かあったのかなぁ…)
喧嘩でもしたのだろうか。もしくはまた気に障るようなことを言われたか…。
どちらにしろ、またスペインが原因だろうということは経験上明らかである。
胸を刺す痛みと如何ともしがたい感情が沸いてくると
何の前触れもなく電話の音が鳴り響き、慌てて手を布巾で拭いて受話器をとった。
「はいはーい?」
「あ、イタちゃん!?俺俺!」
その声を聴いて『俺』じゃ誰だか分からないよー。と返してさっさと電話を切りたくなったが、我慢して
いつものとおりに間延びした声を出した。
「…ヴェースペイン兄ちゃん、どうしたの~?」
「あー、その…ロマーノ居る?」
言い辛そうな声に、確信した。兄の涙の原因はやはりスペインである、と。
「―――兄ちゃん?さっき上司から電話があって出かけたところだけど…」
「あ、そうなんや…なんや、ちゃんと家に戻ってたんやな。良かったわ~」
「ヴェ?どういうこと?」
曰く、突然帰ると言い出して家を出たロマーノに、何度か携帯に連絡を入れたのだが
出てもらえなかったらしい。
「そっかぁ、でも今朝も兄ちゃん普通だったし、別に気にすることないと思うよー。
そのうち自分から連絡すると思うから、それまでそっとしといて大丈夫だよ!」
その後二、三言話してから電話を切った。
じっと電話を見つめると、くるりと踵を返し、いつもどおりの緩い笑みを浮かべた。
「さぁ、ご飯ご飯~!」
もう朝食というよりは早めの昼食の時間になってしまうだろうが、
きっと昨日の夜も何も食べてないだろうから、美味しいものをたくさん作っておこう。
テーブルの上のトマトを取り、水で洗うとまな板の上に置いた。
(兄ちゃんの好物であるトマトは必須、だよね~)
仄暗いイタちゃん…。