戦地から戻ってきたアントーニョは、報告を済ませると王城から出た。
外に出て見上げた石造りの城は大きく、堅苦しさに溜息が落ちた。
戦場から戻ったばかりで疲れているのに、報告だのなんだの後日でえーやん。
休ませてぇや…ほんま。
などと愚痴ていたが、これで漸く家に帰れる。
そして、懐もそれなりに暖まった。これで暫くは食うのに困らないし、
皆に給料払えないなんてこともない。
あとは、屋敷の修繕費だ。
夏の嵐の時期までにせめて屋根だけでも修繕して雨漏りを防がなければ…
また雨漏りの箇所にバケツやらを置いて回ったけど
雨漏りが多すぎて対処しきれず、ベッドまで水浸しになった…なんてことはもうごめんだ。
過去の悲惨な出来事を思い出して苦い顔をした。
アントーニョ・フェルナンデス・カリエド。カリエドと言えば、この国ではそれなりの名家だ。
だが、それも昔のこと。ここ最近は前当主であった父親のせいで没落寸前もいいところである。
というのも、その父親は下町に愛人を作り、彼女に金品を貢ぎまくり、家の金どころか、
持っていた領地さえ手放した。そんな馬鹿な男に妻は愛想を尽かし出て行った挙句
男もさっさと病気で逝ってしまった。
…まだ子供でしかないアントーニョに全てを押し付ける形で。
アントーニョはそんなまさに崖っぷちの家の現当主として、日々資金繰りに奔走していた。
親なんて自分勝手なものだ。
愛人に夢中で家庭を顧みない馬鹿な父親も、自分を置いて出て行った母親も、皆、勝手だ。
自分だけを、屋敷に置き去りにして。
文句だけなら山ほどあるが、それも全て黙って飲み込むしかなかった。
寂しいとか、悲しいとか、辛いとか、悔しいとか。
良く分からない感情でいっぱいだったけれど、支えてくれる人がいるから。
まだ失くしたくない人たちがいるから、と奮起した。
一人でどこまで出来るかなんて分からないけれど、
皆のためにも、何が何でも頑張らなければ。
そんな思いを抱えながら、けれどやっぱり少し疲れてきたかもしれない。
あぁ、だめだな。帰る時は笑顔でいなければ、余計な心配をさせてしまう。
「アントーニョ」
名を呼ばれて振り返ると、良く知る人物が片手を上げて近づいてきた。
さらりとした金髪に、色使いも派手な服に身を包んだ、昔からの友人でもあるフランシスだった。